大げさな見出しを付けましたが、要はお金を払って購入して頂いたお客様に残念な思いをさせない様にしましょう!って事です。
お客様が、買って良かったと喜んで頂ける事を常に意識しています。
私は祖父の代から帽子を作っている姿を見て来て、これが帽子の作り方なんだな〜と長いことそのまま受け止めてきましたが、自分でミシンを覚え、パターンを一杯引いている内に疑問に思うことが色々と出て来ました。
帽子の縫製その物は結果として殆ど独学になりました、手を抜いて会社の利益のみを求めた物作りは、時代と共に海外にシフトしました。日本製として作っているのに、安い物を作っている海外の工場の作り方を真似たメーカーもかなり有りましたし、いまでも残っています。
それは違うんじゃないかと思い、国内で作るのなら「日本製」として恥ずかしくない物を作りたいと常々思っていましたが、昔は生産を外部の工場に委ねるしかなく、当時のお客様には申し訳無いことですが、量産で上がってくる帽子のレベルを予想してわざと手を抜いてサンプルを作っていた時も有りました。忸怩たる思いでした。
その後、色んなショックがあり、生産を根本的に見直す事が出来るチャンスが来ました、外部の生産をやめて社内で生産が出来る様にスタッフを雇い体制を作って来ました。
ようやく私が見ても恥ずかしくない帽子が社内で出来る様になり、私がサンプルを本気で作りスタッフがそれ以上の量産品を作ってくれる、そんな良い感じに成って来た所で、ようやく、昔から気に成っていた作業をやめることにしました。
帽子の型入れ(プレス)について
私の知っている限り、殆どの帽子メーカーが型入れ(下の画像の道具を使います、他にもハット、麦藁帽子専用の大きな物も有ります)をしています。縫い上がった帽子のシワや歪みを取って見た目を綺麗にする作業です。
パターンを引いている立場からすると折角微妙な線を引いたのに、結局金型に合わせられてしまう事に納得がいかない日々が長く続きました。
そして、6〜7年程前から型入れをやめました、現在まで全て縫いっぱなしのまま納品をしています(当然メルカリもですね)
何が違うのかと言うと、一番大きな事は、一般的に過度な型入れをした帽子は「洗うと元に戻ります」
型入れで綺麗にした部分が露呈しています。
メルカリで見ていてもバイアステープが波を打ったり縮んでしまったキャップやハット、サイドの縫い代が直線(正面から見て階段状)になってしまっているフォーパネルキャップ、明らかに部分的に歪んだ帽子などが出品されています、もちろん弊社で作った帽子も相当数出品されていますが、概ね綺麗だと思います。
※ヤフオクが始まった当時も出品数や相場を見ながらブランド力を確認していました、かなり昔から「中古相場」はそのまま人気度を表す数字なので、取引の有るブランドは必ずチェックしています。
※最近は転売屋さんが多く成り無理に高値に吊り上げているのも良く見かけますが、逆に見れば相場が崩れはじめたら一番先に逃げるのが転売屋さんですので、値引き額などもチェックしています。
※たぶん、帽子業界で私が一番メルカリで帽子のチェックをしていると思います。出品数と取引された数の比率や履歴で価格の変動、販売までの日数なども調べると、本当に人気度がすぐに分かります。
もちろんメーカーとしての事情は有るかと思いますが、たぶん、そういうメーカーは現状に疑問を持っていないのだろうと思われます、帽子屋として型入れをして納品するのが当たり前だからです。
技術レベルの向上には疑問を持つ事が大切な要素です、このままで良いんだろうか、もっと他に方法は無いのだろうか、もっと綺麗な帽子を作るには何が必要なのだろうか、このままで買ってくれたお客様が喜んでくれるのだろうか????などなど。
そう言う事を一工程毎にクリアして行くことが、私は大切だと思っています。
そうして、色んな気に成る事をクリアしてきて、型入れをしなくても納品出来る帽子まで届きました。
※服の縫製でしたら、仕上げのアイロン(マジック)を封印する様なことです。
縫いっぱなしの帽子は洗っても歪んだりしません(生地の特性上縮率は出ますが、明らかな時は先にパターンで修正しています、メルカリで販売している綿和紙のキャップなどがそうです)、高いお金を払ったのに、洗ったら歪んでしまって恥ずかしくて被れないって事は弊社の帽子では無いです。
アパレル様、及び帽子をメーカー(工場)に依頼している全ての方々に提案します。
サンプル及び量産品が上がって来ましたら、必ず洗ってみて下さい。
それが購入して頂いたお客様が被る帽子です。
今後は夏が長くなります、その時期に洗わないで被っている人はいません。
洗濯を前提にした帽子作りが必須になったと感じています。
過度な型入れをした帽子の特徴(分かりやすい点)や工場のスタンスなど。
- 庇の両端の付け根の裏側のスベリがやけにテカっている、若しくはタック状に成っている。
- 裏のバイアステープの縫い代が妙な形で固定されている。
- 穴かがりがやけに出っ張って見える。
- ボッチの足に押されて天上がすこし尖って見える。
- HPで一生懸命型入れをしているとアピールしている(超有名な帽子屋さんも有りますね、型入れしないと売れないと自分で言っている様なもんです。)
大きな話をしましたが、現在持病の為、会社の規模を縮小し細々と帽子を作っていますので、規模の大きなお客様の対応はキャパ的に難しいと思われますので、ご了承下さい。

帽子の二本針ミシンに付いて
これも、帽子をお好きなら方ならご存じかと思いますが、クラウンの縫い代を裏からバイアステープで塞ぐ時に使う特殊ミシンです。
実はこの二本針ミシンの針の巾には何種類か有りまして、弊社は現実的に使える一番狭い規格(5/16インチ、約8mm弱)にしています。デメリットは常に縫い代から解れた糸の処理が必要に成ります、単に手間がかかりますが、メリットとしては6枚で構成されたキャップだとしたら、縫い代の頂点は約120度の角度が付いています。なるべく狭い幅で抑えた方が縫い代の頂点を潰す巾も狭く出来ますので、結果として丸みを維持できますし、縫い代のパッカリングも抑えられます。
シックスパネルのキャップやハットで縫い代に細かい横シワ(パッカリング)が全ての縫い代(芯地を使っているキャップだと正面には出ません)に出ている時は、二本針の巾も気にしてみると良いと思います。使っているバイアステープの素材でも結構変わります。表地より柔らかい素材を使うのが基本です。
ちなみに、何故広い巾の二本針を使うかと言うと、大きく2つの理由に分かれます。
・一つは工場の体制の問題で、縫い代からはみ出た糸を処理するのにコストが掛かるのを抑える為。海外製の帽子の二本針が広いのは主にこれが理由です。
・もう一つは、海外のメジャーなブランドが中国で生産する様に成った当時、企画力の弱いブランドさんは出来の悪い中国製のサンプルを持って来られて、これをベースにキャップを作りたいと。その時に、二本針の巾が広いことが「カジュアルっぽくて良いんだ」と言われて、素直な帽子屋さんは巾の広い二本針ミシンを組みまして、今に続く。
※ちなみに、弊社は「なんで出来の悪い帽子の真似なんかしなくちゃいけないんだと」全て断ったので、今でも狭い巾の二本針を使ってたりします。
本縫いでのスベリ入れを何故やらないか。
大きな理由としては、腕ミシンで入れた方が「楽」で「綺麗に上がる」というのは事実です。ただし、庇付けは必要です。
技術レベルとしては本縫いでのスベリ入れの方が高度な技術が必要です。
なので、会社として技術をアピールをしたいのであればオリジナルで使用するなら良いと思います。
私がOEMで出来るのにやらないのは、本縫いでのスベリ入れにはデメリットがあると言うことです。
◎裾に不執拗なステッチが入ってしまいます。
1.見える方が下糸になるので、表地とスベリの濃淡の差が有ると表側にスベリ側の糸がチラチラ見える(糸調子の問題ですが)ので、スベリ側に表地の色の糸を使っているのを見かけます。
2.裾の内径をインチで釣って(サイズを小さくする)、スベリを綺麗に収めようとする(紙でイメージすると解り安いのですが、丸く筒状にした紙の裾に、テープ状にした紙を外側に巻いてそれを内側に折り込むとどう成りますか?内側がシワだらけになりますよね、それを防ぐ為に先に裾の長さを詰めておく作業がインチテープ入れです)と、素材によってはインチで釣った部分に微妙にシワが入り汚く成ってしまう。
◎後クリの横でスベリを止める縦に縫う部分が、バイアステープを縫ったステッチと重ねるのが難しいので、腕ミシンで入れた時より汚く仕上がる。昔は、気にせず適当に縫っていたので、これがバイアスを縫ったステッチ、これがスベリを止めたステッチと完全に分かれていました。